Thomann S-150mk2
時代遅れの設計で、限定的な用途にしか価値を見出せない従来型クラスABパワーアンプ
概要
Thomann S-150mk2は、ドイツの楽器・音響機器販売店Thomannの自社ブランドt.ampから販売されているクラスAB方式のパワーアンプです。2Uラックマウントサイズの筐体を持ち、公称出力は4Ω負荷時にチャネルあたり150W、8Ω負荷時に85Wです。価格を抑えたPA(業務用音響)やスタジオユースを想定した製品ラインナップに位置づけられています。
科学的有効性
\[\Large \text{0.6}\]公称の周波数特性は10Hzから50kHz(-1.5dB)とされており、可聴帯域はカバーしていますが、±1.5dBという偏差は現代の忠実度再生を目指すアンプとしては大きなものです。また、音の透明度を客観的に示すための重要な指標であるTHD+N(全高調波歪+ノイズ)、IMD(相互変調歪)、S/N比といった詳細な測定データが一切公開されていません。このため、マスター音源をどれだけ忠実に増幅できるかという科学的評価は困難です。ダンピングファクターは150以上とされていますが、基本的な性能指標が不明である以上、総合的な透明性が確保されているとは言えません。
技術レベル
\[\Large \text{0.2}\]本製品は、数十年前から存在する伝統的なクラスAB回路設計をそのまま採用しており、技術的な革新性や独自性は皆無です。現代の主流である高効率・高性能なクラスDアンプと比較すると、その設計は完全に時代遅れと言えます。11.5kgという重量は、電源トランスやヒートシンクによるものであり、技術的洗練ではなく物量投入に依存した旧世代の思想を反映しています。搭載されている保護回路も基本的なものに留まり、現代的なデジタル制御やDSP機能などは一切なく、技術レベルは業界の平均を大きく下回る陳腐なものです。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.5}\]本製品の価格は約229 USDです。しかし、ユーザーが得られる「音声信号の増幅」という本質的価値で比較すると、より安価で、かつ測定性能で本機を大きく上回る代替品が存在します。例えば、高性能クラスDアンプであるFosi Audio V3は約109 USDで、出力・歪率・S/N比のいずれにおいても、この種の旧式クラスABアンプを凌駕します。
コストパフォーマンスは「109 USD ÷ 229 USD = 0.475…」となり、四捨五入してスコアは0.5となります。バランス接続(XLR/TRS)やラックマウントといった特定の機能に価値を見出さない限り、純粋な音響性能に対する価格は著しく低い評価とならざるを得ません。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.2}\]Thomannはオーディオ専門メーカーではなく、主に楽器やPA機器を扱う販売店です。本製品は中国等のOEM/ODMメーカーによる既製品を自社ブランドで販売している可能性が極めて高く、Thomann自身が設計や品質管理に深く関与しているとは考えにくいです。長期的な修理サポート体制やファームウェア更新(本機には不要ですが)といったメーカーとしての信頼性は期待できず、保証期間内の交換対応が基本となるでしょう。故障率や製品寿命に関する客観的なデータも無いため、信頼性は最低レベルと評価します。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.4}\]ファンレス設計による完全な静音動作は、レコーディングスタジオや静かなリスニング環境において合理的な選択です。しかし、そのために巨大なヒートシンクを必要とする重厚長大なクラスAB設計に固執する思想は、現代の視点からは合理的とは言えません。より小型・軽量・低消費電力で、なおかつ同等以上の測定性能を達成するクラスDアンプがはるかに安価に存在するという事実が、本製品の存在意義を根底から揺るがしています。特定のニッチな要求(ファンレス、バランス接続、ラックマウント)を低価格で満たすという点以外に、この設計を選ぶ積極的な理由を見出すのは困難です。
アドバイス
本製品は、①ファンレス(完全無音)、②バランス接続(XLR/TRS)、③ラックマウント、という3つの条件を絶対要件とし、なおかつ可能な限り低予算で導入したい、という極めて限定的なニーズにのみ応える製品です。純粋な音質やパワーを求めるのであれば、Fosi Audio V3に代表される現代的な高性能クラスDアンプが、半額以下の投資で本機をあらゆる面で上回るパフォーマンスを提供します。
もし上記3点のいずれかが必須でないのなら、本製品を選ぶ理由はほぼありません。特に家庭でのオーディオ再生が目的であれば、より小型で高性能、かつ安価な選択肢が他に多数存在します。自身の用途と必須要件を厳密に見極めた上で、慎重に検討すべきです。
(2025.7.21)