Topping ArpegEar Hane
Toppingが新ブランドArpegEarとしてリリースした初のIEM。129米ドルの価格で10mmダイナミックドライバーを搭載し、4つのDIPスイッチによる16通りの音質調整が可能。測定では90dB SPLで0.05%未満の低いTHDを示すが、110dB時には5%まで上昇する。V字型のアグレッシブなサウンドシグネチャを持つ。同価格帯のTruthear Hexa(89.99米ドル)やDunu Titan S(100米ドル未満)などの競合品と比較すると、性能対価格の優位性は限定的。
概要
Topping ArpegEar Haneは、DACで有名なToppingが新ブランドArpegEarとして2024年にリリースした初のIEMです。129米ドルの価格でDLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングを施した10mmダイナミックドライバーを搭載しています。最大の特徴は4つのDIPスイッチによる16通りの音質調整機能です。80Ω±15%のインピーダンス、115dB/Vrmsの感度、5Hz-35kHzの周波数応答を持ちます。筐体には光沢のある黒色樹脂と青い羽根模様のフェイスプレートが採用されています。
科学的有効性
\[\Large \text{0.7}\]測定データによると、通常の聴取レベル(90dB SPL)でのTHDは0.05%未満と良好な数値を示しています。しかし、110dB時には5%まで上昇し、特に低域と中域での歪みが顕著になります。周波数応答は5Hz-35kHzと広帯域をカバーしており、スペック上は優秀です。DIPスイッチによる音質調整は実際に聴感上の違いを生み、科学的根拠のある機能です。ただし、スイッチ使用時はTHDが増加するという測定結果があり、音質調整と歪み性能はトレードオフの関係にあります。
技術レベル
\[\Large \text{0.6}\]DLCコーティングダイナミックドライバーの採用は一定の技術的配慮を示しています。4つのDIPスイッチによる電子クロスオーバー方式での音質調整機能は興味深い技術的アプローチです。80Ωという高めのインピーダンス設計は、スマートフォンでの駆動には課題がありますが、技術的には意図的な選択と考えられます。しかし、2024年の技術水準から見ると、シングルダイナミックドライバー構成自体は特に先進的とは言えません。調整機能がTHDを増加させる点も、技術的完成度に疑問を残します。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.5}\]Haneの価格は129米ドルですが、同等またはより優れた性能を持つ競合品が低価格で存在します。Truthear Hexa(89.99米ドル)は優れたハイブリッド構成で中立的な音質を提供し、Dunu Titan S(100米ドル未満)は楽しいサウンドと wide soundstageを実現しています。さらに、7Hz Salnotes Zero 2(約20米ドル-30)は100米ドル級IEMに匹敵する性能を示しています。CP = 89.99米ドル ÷ 129米ドル = 0.70となり、明らかに割高です。調整機能は付加価値ですが、基本性能で劣る製品に高価格を正当化するほどの価値はありません。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.6}\]ToppingはDAC分野で確立した品質管理体制を持っており、IEMにおいても一定の信頼性が期待できます。取り外し可能な0.78mm 2-pinケーブルの採用により、交換・アップグレードが可能です。しかし、ArpegEarは新ブランドであり、IEM分野での長期的な実績はありません。保証期間やアフターサポートについても、特に優れた点は見当たりません。DIPスイッチという機械的な部品が多数あることで、長期使用時の信頼性に懸念があります。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.5}\]16通りの音質調整機能というアプローチは、ユーザーの好みに対応する合理的な発想です。モニターライクなニュートラル調整から、V字型のアグレッシブなサウンドまで対応可能という柔軟性は評価できます。しかし、調整機能の実装がTHDを増加させる点は設計思想の矛盾を表しています。また、80Ωという高インピーダンス設計は、現代のモバイルデバイスでの使用を考慮すると合理性に欠けます。基本的な音質よりも機能性を優先した設計は、オーディオ製品として本末転倒の感があります。
アドバイス
Topping ArpegEar Haneは興味深い調整機能を持つIEMですが、2024年の競争激化したIEM市場では推奨しにくい製品です。129米ドルの予算があれば、Truthear Hexa(79.99米ドル)やDunu Titan S(100米ドル未満)など、より優れた基本性能を持つ製品を選択することをお勧めします。特にTruthear Hexaは中立的な音質と優れたコヒーレンシーを提供し、残った予算でより良いケーブルやイヤーチップを購入できます。Haneの購入を検討する理由があるとすれば、音質調整機能を頻繁に使用したいユーザーに限定されますが、その場合でも調整による音質劣化を承知の上で選択する必要があります。
(2025.7.6)