TRI i3 MK3
トライブリッド構成による多ドライバー搭載IEM。各ドライバーの役割分担は合理的だが、測定データが非公開で科学的有効性は不明。同等の音楽体験を提供するより安価な競合製品が存在するため、コストパフォーマンスは著しく低い。
概要
TRI i3 MK3は、同社の人気モデルi3シリーズの第3世代イヤホンです。10mmベリリウムコーティングダイナミックドライバー(低域)、Sonion 2356バランスドアーマチュア(中域)、10mmプラナーマグネティックドライバー(高域)を組み合わせたトライブリッド構成を採用しています。CNCアルミニウム合金筐体に銀メッキケーブルを組み合わせ、4.4mmバランスプラグを標準装備。インピーダンス21Ω、感度104±1dB、周波数応答20Hz-20kHzの仕様です。2024年6月リリースの現行価格は29,999円です。
科学的有効性
\[\Large \text{0.4}\]測定性能面では低評価となります。21Ωのインピーダンスと104±1dBの感度は駆動しやすい仕様ですが、科学的評価の根拠となるTHD、SNR、クロストーク、ダイナミックレンジなどの具体的な測定データが一切公開されていません。トライブリッド構成による各帯域の分離についてもユーザーレビューでの主観的評価に留まり、客観的な測定による透明レベル達成の証拠がありません。周波数特性は20Hz-20kHzと記載されていますが、偏差(±dB)などの詳細が不明であり、科学的有効性の判定に必要なデータが欠如しています。
技術レベル
\[\Large \text{0.6}\]複数の異なる種類のドライバーを組み合わせるハイブリッド技術は、今日のIEM市場では確立されたアプローチです。ベリリウムコーティングダイアフラム、Sonion製BAドライバー、プラナードライバーはいずれも実績のあるコンポーネントですが、これらを組み合わせる設計は特に目新しいものではありません。CNC加工筐体や高品質ケーブルの採用は評価できますが、技術的な独自性や革新性は限定的です。業界平均を上回る部品選定ですが、トップクラスの革新性には至らないため、スコアは0.6とします。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.3}\]29,999円の価格に対し、同等以上の忠実な音楽再生体験を提供する代替品との比較で評価します。比較対象として、科学的なチューニングで高い評価を得ている「Truthear x Crinacle ZERO:RED」(実売価格 8,450円)が挙げられます。ドライバー構成は異なりますが、ユーザーが得られる「高忠実度な音楽体験」という本質的価値は同等以上です。コストパフォーマンスは 8,450円 ÷ 29,999円 ≒ 0.28
と計算され、四捨五入して0.3となります。i3 MK3の価格は、その性能に対して著しく高いと言わざるを得ません。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.6}\]TRIは比較的新しいオーディオブランドであり、長期的な信頼性に関する客観的データは限定的です。保証期間や国内での修理体制について、大手ブランドほどの明確さや安心感はありません。中国系ブランドとして一定の品質管理は行われていると推測されますが、アフターサービスの充実度は業界平均レベルに留まると評価するのが妥当です。ファームウェア更新が不要な製品カテゴリのため、物理故障時の対応が評価のすべてとなります。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.8}\]設計アプローチは科学的に合理的です。各周波数帯域に最適化したドライバーを分担させることで、理論上は各帯域の歪みを抑え、全体の解像度を向上させることを目指しています。ベリリウムやプラナードライバーの採用は、応答性や高域特性の改善に寄与する合理的な選択です。ただし、測定データが非公開であるため、クロスオーバー設計の最適化や位相特性の一貫性といった、このアプローチに伴う課題が解決されているかは不明です。思想自体は合理的ですが、その実現性は検証できません。
アドバイス
TRI i3 MK3は、ベリリウム、BA、プラナーという3種類のドライバーを搭載している点に技術的な特徴があります。しかし、その音響性能が価格に見合っているかは疑問です。科学的な測定データが公開されておらず、音質の客観的な優位性は不明です。さらに、8,500円程度で販売されている「Truthear x Crinacle ZERO:RED」のような製品が、同等以上の優れた音楽体験を提供している現状では、i3 MK3のコストパフォーマンスは極めて低いと言えます。特定のドライバー構成やデザインに強いこだわりを持つオーディオファン以外には、積極的におすすめできる製品ではありません。より低価格で、客観的な性能評価の高い製品を検討することを強く推奨します。
(2025.7.28)