Trinnov Audio D-MON

総合評価
3.0
科学的有効性
0.7
技術レベル
0.8
コストパフォーマンス
0.0
信頼性・サポート
0.7
設計思想の合理性
0.8

デジタルルーム補正機能付きモニターコントローラー。高度な技術力と信頼性を持つが、同等機能をより安価に実現可能な代替手段が存在するため、コストパフォーマンスに課題がある。

概要

Trinnov Audio D-MONは、フランスの音響技術企業Trinnovが開発した高性能デジタルモニターコントローラーです。同社独自のOptimizer技術によるデジタルルーム補正機能を搭載し、ステレオから最大18チャンネルのイマーシブサウンドシステムまで対応します。3Dマイクロフォンシステムを使用した位相補正を含む包括的な音響補正により、世界中の約2,000のスタジオで採用されています。プロフェッショナルオーディオ分野で確固たる地位を築いており、AVID制御サーfaces(S6、S5、S4、S3)やIcon D-Command/D-Controlとの完全統合を実現しています。

科学的有効性

\[\Large \text{0.7}\]

D-MONの測定性能は業界標準を上回る優秀なレベルを達成しています。公表されている仕様では、ダイナミックレンジはA-D変換で119dB、D-A変換で118dB(A特性)を実現し、測定結果基準表の透明レベル(105dB以上)を大幅に上回ります。周波数特性は20Hz-20kHz(±0.1dB)と仕様に記載されており、透明レベルの基準を満たしています。特に注目すべきは位相補正機能で、従来の周波数ドメイン補正のみの製品と異なり、時間ドメインでの補正も実現しています。96kHzサンプリングレートまで対応し、マスタリングスタジオレベルの要求を満たす性能を提供します。

技術レベル

\[\Large \text{0.8}\]

Trinnovの技術力は業界最高水準の一つです。独自のOptimizer技術は3Dマイクロフォンシステム(4つのオムニキャプセルをテトラヘドロン配置)を使用し、各スピーカーの位置を三角測量で特定しながら位相補正を実現する革新的なアプローチを採用しています。これは市場の多くのルーム補正製品が周波数ドメインのみの補正にとどまる中、時間ドメインでの補正も含む包括的なソリューションです。EUCON互換性とAVID制御サーフェースとの完全統合、GPIO/MIDI統合機能など、プロ用途に特化した高度な設計が施されています。チャンネル構成も柔軟で、6チャンネルから18チャンネルまでソフトウェアでのアップグレードが可能な拡張性を持ちます。

コストパフォーマンス

\[\Large \text{0.0}\]

D-MONの価格は構成により15,500USDから27,500USDと非常に高価です。同等の機能は、より安価な代替手段で実現可能です。多チャンネルに対応したルーム補正ソフトウェア「Sonarworks SoundID Reference for Multichannel」(約499USD)と、多チャンネル出力を持つオーディオインターフェース兼モニターコントローラー「Focusrite Scarlett 18i20」(約500USD)の組み合わせにより、合計約999USDで同等の環境を構築できます。この組み合わせは、測定に基づく包括的なルーム補正とプロフェッショナルなモニター制御を提供します。D-MONの価格を保守的に20,000USDと仮定して計算すると、「999USD ÷ 20,000USD = 0.04995」となり、四捨五入して0.0の評価となります。

信頼性・サポート

\[\Large \text{0.7}\]

Trinnovは2003年設立のフランス企業として、プロフェッショナルオーディオ分野で確固たる実績を持ちます。世界中の約2,000スタジオでの採用実績は信頼性の高さを示しています。ファームウェア更新による機能拡張への対応実績があり、ハードウェア設計の柔軟性により長期間の使用に耐える製品設計となっています。ただし、現在主要販売店での在庫不足(2025年7月まで入荷待ち)が発生しており、供給面での課題が見られます。保証期間や具体的なRMA比率については公開情報が限定的ですが、プロ用途での継続採用状況から、業界平均以上の信頼性を持つと判断できます。

設計思想の合理性

\[\Large \text{0.8}\]

D-MONの設計思想は科学的根拠に基づく極めて合理的なアプローチを採用しています。位相補正を含む包括的なルーム補正は、単純な周波数特性補正よりも音響的に有効な改善をもたらします。3Dマイクロフォンシステムによる空間音響解析は測定の精度向上に寄与し、従来の単一マイクロフォン測定より科学的に妥当です。ソフトウェアによるチャンネル拡張方式は、ハードウェアの無駄を排除した効率的な設計です。AVID統合やMIDI/GPIO対応など、実際のスタジオワークフローに即した実用性重視の機能実装も合理的です。ただし、専用ハードウェアとして存在する必然性については疑問があり、同等機能をソフトウェア+汎用ハードウェアでより低コストに実現可能な点で、現代的な合理性にやや欠けます。

アドバイス

D-MONは技術的に非常に優れた製品ですが、その極めて高い価格設定から、ほとんどのユーザーにとって購入は推奨できません。同等のルーム補正と多チャンネルモニター制御機能は、「Sonarworks SoundID Reference for Multichannel」(約499USD)と「Focusrite Scarlett 18i20」(約500USD)を組み合わせることで、約20分の1以下のコストで実現可能です。この代替案は、プロフェッショナルなスタジオ環境においても十分実用的な選択肢です。D-MONの導入が合理化されるのは、AVIDコントロールサーフェスとの完全な統合が必須となる大規模商業スタジオや、予算に一切制約のない環境に限られます。個人や小規模スタジオのオーナーは、投資対効果を慎重に評価し、より安価な代替手段を優先的に検討すべきです。 (2025.7.14)