TRN V10 Pro
2DD+2BA構成を持つ多ドラ機。優れたコストパフォーマンスを持つが、V字型チューニングにより科学的忠実度は限定的で、より安価で高性能な代替品も存在する。
概要
TRN V10 Proは、中国のオーディオメーカーTRNが開発した2DD+2BA構成のハイブリッドイヤホンです。10mmベリリウムコーティング・ダイナミックドライバーと6mmチタンコーティング・ダイナミックドライバー、さらに2基の30095型高域用バランスドアーマチュアドライバーを搭載しています。日本市場では2,350円で販売されており、この価格帯では珍しい4ドライバー構成を実現しています。周波数特性20Hz-20kHz、感度112dB、インピーダンス22Ωという仕様で、V字型の音響チューニングを採用しています。
科学的有効性
\[\Large \text{0.5}\]TRN V10 Proの測定性能は業界平均レベルに留まります。公称の周波数特性20Hz-20kHzは標準的な範囲をカバーしていますが、実際の特性はV字型にチューニングされており、低域と高域にブーストが施されています。これは科学的な忠実度という観点では中立性から逸脱しています。感度112dBという値は適切な範囲内ですが、詳細なTHD測定データや実測のS/N比データは限定的です。ハイブリッド構成により各帯域の再生は比較的良好とされますが、意図的なV字型チューニングにより中域の後退が見られ、マスター音源への完全な忠実度は制限されます。可聴域での測定により確認された改善効果は限定的で、標準レベルの科学的有効性と判断されます。
技術レベル
\[\Large \text{0.4}\]TRN V10 Proは2DD+2BA構成という技術的な複雑性を持ちますが、実装レベルは業界平均を下回ります。10mmベリリウムコーティングドライバーと6mmチタンコーティングドライバーの2基のダイナミックドライバーに、30095型BAドライバー2基を組み合わせた設計は理論的には優れていますが、クロスオーバー設計の最適化が不十分です。各ドライバーの特性を十分に活かしきれておらず、4ドライバー構成の利点が音質面で明確に現れていません。この価格帯での4ドライバー実装は評価できますが、基本的な設計思想や実装技術において既製品の組み合わせ的な側面が強く、独自性に欠けています。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.9}\]本製品のコストパフォーマンスは、ドライバー構成ではなく最終的な測定性能で評価します。V10 Proの性能は業界平均レベルですが、より安価で、より科学的に忠実度の高い(ニュートラルな)測定性能を持つ製品が存在します。例えば、ニュートラルな音質で評価の高い7Hz Salnotes Zeroは、より安価な2,200円程度で入手可能です。これを比較対象とすると、計算式は 2,200円 ÷ 2,350円 ≒ 0.936
となります。四捨五入した結果、スコアは0.9です。多ドライバー構成という特徴はありますが、純粋な音響性能で見た場合、最良の価格性能比を持つ製品とは言えません。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.2}\]TRNは2017年設立の新興メーカーであり、長期的な信頼性実績が不足しています。製品には1年間の製造不良保証が付帯しますが、日本市場でのサポート体制は限定的です。Amazon.co.jpでの販売においても、品質のバラつきや初期不良の報告が散見されます。特に、この価格帯での4ドライバー実装は品質管理の難易度を高め、個体差のリスクを増大させています。修理体制も不明確で、アフターサポートの質は業界最低水準に近いと判断されます。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.7}\]TRN V10 Proの設計思想には合理的な要素と非合理的な要素が混在しています。2DD+2BA構成で周波数帯域を最適化するアプローチは理論的に合理的で、ベリリウムコーティングとチタンコーティングの異なる振動板材料の採用も音質向上への適切な方向性です。しかし、意図的なV字型チューニングの採用は、科学的な透明度よりも主観的な「楽しさ」を優先した判断であり、マスター音源への忠実度という観点では非合理的です。この価格帯でのハイブリッド構成実現は技術的価値がありますが、透明レベル達成への寄与は限定的です。総合的に、技術的方向性は妥当ですが、チューニング思想に改善の余地があります。
アドバイス
TRN V10 Proの購入を検討されている方には、用途と音質の優先度を明確にした上での選択をお勧めします。多ドライバー構成に技術的な魅力を感じ、V字型の楽しい音質を求める方には選択肢の一つとなります。しかし、科学的な忠実度を重視する場合、より安価かつ優れた測定性能を持つ7Hz Salnotes Zero(約2,200円)のような製品が存在することを念頭に置くべきです。また、予算を少し上げてでもチューニングの完成度を求めるなら、Moondrop Chu II(約3,960円)も有力な候補となります。V10 Proを選ぶ場合は、主に娯楽用途での使用に留め、品質のバラつきリスクを理解した上で購入することが重要です。
(2025.8.1)