TRN VX
V字型音響特性による刺激的な高音域を持つ7ドライバーハイブリッドIEMですが、8kHzピークによる聴き疲れと、より安価な代替品の存在により科学的有効性とコストパフォーマンスで課題があります
概要
TRN VXは中国のTRN Audioが開発した7ドライバーハイブリッド構成のインイヤーモニターです。6基のバランスドアーマチュア(3×Knowles 30095、3×Knowles 50060)と1基の10mmダイナミックドライバーを搭載し、CNマシニング加工されたマグネシウム合金ハウジングを採用しています。インピーダンス22Ω、感度107dB/mW、周波数レンジ7-40,000Hzの仕様で、エメラルドグリーンとブラックの2色展開です。約1万円の価格帯で、優れた解像度と技術的能力を持つとされる一方、明るいV字型チューニングによる聴き疲れが指摘されています。
科学的有効性
\[\Large \text{0.4}\]TRN VXの測定値は科学的透明性の観点から重大な問題を示しています。最も深刻なのは8kHz付近での顕著なピークで、これは聴覚上の快適性を著しく損ないます。このピークは可聴閾値を明らかに超える音響的影響をもたらし、多くのレビューで「聴き疲れ」「刺激的すぎる」と報告される原因となっています。上部中音域の過度な強調により、ボーカルが「叫んでいる」ような印象を与え、一部の打楽器が「鋭く攻撃的」に聞こえるという問題も確認されています。低域は中低域が強調される一方で超低域は控えめで、スペクトラム全体としての均衡性に欠けます。V字型特性は確実に可聴の違いを生み出しますが、透明な再生からは大きく逸脱しており、マスター音源への忠実度という観点では問題レベルに達しています。
技術レベル
\[\Large \text{0.6}\]技術的な観点では、TRN VXは一定の水準に達しています。7ドライバーのハイブリッド構成は複雑で、Knowles製BAドライバーの採用は業界標準的なアプローチです。CNマシニング加工されたマグネシウム合金ハウジングは軽量性と剛性を両立し、製造技術としては評価できます。解像度や楽器分離能力は価格帯では優秀で、サウンドステージの幅も同価格帯の競合を上回ります。しかし、ドライバー統合やクロスオーバー設計において、8kHzピークのような問題が残存しており、設計の最適化には改善の余地があります。また、使用されている技術は既存の手法の組み合わせに留まり、革新的な独自技術は見られません。現在の技術水準から見れば平均的な達成度といえます。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.2}\]TRN VXの現在の実勢価格は約1万円ですが、同等以上の機能・性能を持つ代替品として、Moondrop CHU(2,200円)やCCA CRA(2,000円)が存在します。これらの単一ドライバー構成IEMは、TRN VXと同様の解像度と音響性能を提供しながら、より優れた音響バランスを実現しています。特にMoondrop CHUは中性的なチューニングにより、TRN VXの問題である8kHzピークを回避し、より自然な音響特性を持っています。計算式:2,200円 ÷ 10,000円 = 0.22となり、四捨五入により0.2となります。約8,000円の価格差は、ドライバー数の多さや高級素材使用だけでは正当化できません。より安価でありながら実用上同等以上の音響体験を提供する製品が複数存在することから、コストパフォーマンスは低いと評価せざるを得ません。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.3}\]TRN Audioは中国の新興オーディオブランドですが、その信頼性には懸念があります。オンラインコミュニティではドライバーの不具合やシェルの接着不良といった初期不良に関する報告が散見され、製品ごとの品質にはばらつきがあると考えられます。2pin着脱式ケーブルはメンテナンス性に寄与するものの、ブランド全体として品質管理が安定しているとは言えません。日本国内での正規代理店サポートは限定的で、主に海外通販が購入手段となるため、問題発生時の対応は大手ブランドに比べて困難です。長期的な耐久性に関するデータも乏しく、業界平均水準の信頼性を確保しているとは評価し難い状況です。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.4}\]TRN VXの設計思想は一部で合理的なアプローチを示していますが、全体的には問題があります。7ドライバーのハイブリッド構成自体は音響工学的に理にかなったアプローチで、各帯域に専用ドライバーを割り当てる考え方は正当です。軽量で剛性の高いマグネシウム合金ハウジングの採用も振動制御の観点から合理的です。しかし、最終的な音響チューニングにおいて、意図的なV字型特性の採用は科学的合理性に欠けます。特に8kHzでの顕著なピークは、音響透明性を犠牲にして「派手さ」を優先した結果といえ、高忠実度再生という目標から逸脱しています。より問題なのは、同じコストでより透明な音響特性を実現できる技術が既に市場に存在することです。Moondrop CHUのような製品が5分の1以下の価格でより自然なチューニングを実現している現状を考慮すると、TRN VXの設計方向性は非合理的と評価せざるを得ません。
アドバイス
TRN VXの購入を検討されている方には、まず同価格帯での代替選択肢を十分に検討することを強く推奨します。1万円という予算があれば、より音響的にバランスの取れた製品を選択できます。特に音響の忠実性を重視される場合、Moondrop CHU(2,200円)やCCA CRA(2,000円)といった代替品が遥かに優れたコストパフォーマンスを提供します。これらの製品は単一ドライバー構成でありながら、TRN VXの持つ8kHzピーク問題を回避し、より自然な音響特性を実現しています。もしマルチドライバー構成や高級な外観にこだわりがある場合でも、購入前に必ず試聴を行い、聴き疲れの問題が許容できるかを確認してください。長時間の音楽鑑賞を前提とする場合、TRN VXの刺激的な高音域特性は快適性を大きく損なう可能性があります。予算を有効活用し、より科学的に優れた選択肢を検討されることを推奨します。
(2025.7.24)