TRN VX Pro
TRN VX Proは9ドライバー(1DD+8BA)構成のハイブリッドIEMですが、88 USDの価格に対して7Hz Zero(20 USD)などの低価格競合製品が同等の機能・性能を20 USD程度で提供しているため、コストパフォーマンスが劣ります。
概要
TRNは2017年に設立された中国の東莞祖度音響技術有限公司の娘ブランドで、2人のエンジニアとオーディオファンが立ち上げたIEMメーカーです。VX Proは同社の2021年フラッグシップモデルで、10mmカーボンナノチューブ動的ドライバーと8基のカスタムBAドライバーを組み合わせたハイブリッド構成を採用しています。航空機グレードのマグネシウム合金製ハウジングを5軸CNC加工で製造し、4芯銀メッキ銅ケーブルを付属します。
科学的有効性
\[\Large \text{0.5}\]周波数特性は7Hz-40kHzの範囲でV字型特性を示します。感度106dB、インピーダンス22Ωの仕様により、スマートフォンでも十分駆動可能です。ただし、具体的なTHDやSNR、クロストークの実測データが公開されておらず、主観的評価に依存しています。遮音性については測定で平均的なパッシブ遮音性能を示しており、測定データが限定的であるため、透明レベル達成の評価は困難ですが、現在のデータからは平均的な性能と判断されます。
技術レベル
\[\Large \text{0.5}\]9ドライバー構成(1DD+8BA)は数的には多いものの、これらは既存のドライバーユニットの組み合わせであり、独自設計の技術的革新性は限定的です。カーボンナノチューブ振動板とデュアル磁気キャビティ設計を採用していますが、これらは業界で一般化された技術です。3ウェイクロスオーバー設計により周波数帯域を分担していますが、技術的な達成度は業界平均水準にとどまります。マグネシウム合金ハウジングの5軸CNC加工は質感向上に寄与しますが、音質への科学的効果は限定的です。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.2}\]TRN VX Proの価格は88 USDですが、同等の機能・性能を提供する7Hz Zero(20 USD)が存在します。7Hz Zeroは楽器分離、ディテール再現、イメージング性能を提供し、チューニングスイッチによりバスヘッド向けから透明ニュートラル低音まで調整可能です。計算式:20 USD ÷ 88 USD = 0.23となり、四捨五入して0.2のスコアとなります。さらにMoondrop CHU(20 USD)やKZ ZS10 Pro(50 USD)なども競合として存在し、TRN VX Proの価格優位性は著しく低いと評価されます。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.5}\]TRNは製品ラインナップが豊富で、MT1 Proなどの製品では1年間の製造不良保証を提供しています。ただし、過去のレビューでは付属ケーブルの品質に課題があることが示されています。最近の製品では2ピンコネクタの信頼性向上が見られますが、全体的には業界平均水準のサポート体制と判断されます。会社設立から8年経過しており、中規模メーカーとしての継続性は確認できます。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.5}\]9ドライバー構成による3ウェイクロスオーバー設計は、理論的には各周波数帯域の最適化が期待できる合理的なアプローチです。V字型チューニングは多くのユーザーに好まれる特性であり、エンターテインメント性と技術性のバランスを取る方向性は合理的です。ただし、複数ドライバー構成によるコストと複雑性の増加に対し、単一ドライバー構成の優秀な競合製品(7Hz Zero等)が同等以上の性能を大幅に低価格で実現している現状では、多ドライバー構成の必然性に疑問が残ります。測定データに基づく客観的評価より主観的評価に依存している傾向も見られます。
アドバイス
TRN VX Proは技術的には標準的なハイブリッドIEMですが、88 USDという価格設定に対して明確な価格優位性のある代替品が複数存在します。特に7Hz Zero(20 USD)は楽器分離、ディテール再現、イメージング性能でVX Proと同等以上の評価を受けており、4倍以上の価格差を正当化する明確な優位性は確認できません。購入を検討される方は、まず20 USD程度の7Hz ZeroやMoondrop CHUを試聴し、これらで満足できない場合のみ高価格製品を検討することをお勧めします。TRNブランドや多ドライバー構成に特別な価値を見出す方以外には、コストパフォーマンスの観点から推奨しません。
(2025.8.7)