TRN VX Pro Plus
1DD+8BAハイブリッド構成のイヤホンながら、同等性能をより安価に実現する代替品の存在により、コストパフォーマンスに課題を抱える製品
概要
TRN VX Pro Plusは、2017年設立の中国オーディオメーカーTRNによる1DD+8BA構成のハイブリッドイヤホンです。10mmベリリウム振動板のダイナミックドライバーと8基のカスタムバランスドアーマチュアドライバー(中域4基、高域4基)を搭載し、45.99USD(約6,900円)で販売されています。同社のVXシリーズの上位モデルとして位置づけられ、軽度のV字型音質チューニングを採用しています。
科学的有効性
\[\Large \text{0.6}\]周波数特性は7Hz~40kHzの広帯域をカバーしますが、レビューで指摘される「軽度のV字型」チューニングは、フラットな再生特性からの逸脱を示します。インピーダンス32Ω、感度106dBという仕様は合理的な範囲内ですが、詳細な測定データ(THD、SNR、クロストーク等)は公開されていません。ハイブリッド構成により各帯域の再生は比較的良好とされますが、V字型チューニングによる中域の後退は科学的有効性を制限します。
技術レベル
\[\Large \text{0.6}\]10mmデュアル磁気回路ダイナミックドライバーにベリリウム振動板を採用し、8基のカスタムBAドライバーを周波数帯域別に配置した設計は、この価格帯では適切な技術実装です。中域用50060型4基、高域用30095型4基という具体的なBA型番の明示は技術的透明性を示します。しかし、これらの技術は業界標準レベルの実装であり、突出した技術革新は見られません。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.4}\]TRN VX Pro Plusの価格45.99USDに対し、同等以上の音質性能を持つMoondrop Chu IIが約20USDで入手可能です。Chu IIは単一ダイナミックドライバー構成ながら、より優れたチューニングと測定結果を示すとされています。コストパフォーマンス計算は、20USD ÷ 45.99USD = 0.435となり、四捨五入して0.4です。これは、ハイブリッド構成の複雑さが必ずしも音質向上に寄与していない典型例と言えます。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.5}\]TRNは2017年設立の比較的新しい企業で、製品には1年間の製造不良保証が付帯します。中国製イヤホンメーカーとしては標準的なサポート体制を維持していますが、長期的な品質データや修理体制の充実度は未知数です。過去のレビューでは「初期の高価格帯製品で失敗があった」との指摘もあり、業界平均レベルの信頼性評価が妥当です。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.7}\]周波数帯域別にドライバーを最適化した設計思想は合理的で、ベリリウム振動板の採用も音質向上への適切なアプローチです。ただし、V字型チューニングの採用は科学的な透明度よりも主観的な「楽しさ」を優先した判断と考えられます。価格帯を考慮すれば技術的な方向性は妥当ですが、より透明な音質への追求が不十分です。
アドバイス
TRN VX Pro Plusは技術的には適切に設計されたハイブリッドイヤホンですが、同価格帯にはより優れた選択肢が存在します。特にMoondrop Chu IIは半額以下でより良好なチューニングを提供するため、音質を重視する購入者には推奨できません。ハイブリッド構成に魅力を感じる方でも、KZ ZS10 Proなど類似価格帯でより実績のある選択肢を検討すべきです。現在の価格設定では、製品の技術的価値が市場価格に適切に反映されているとは言えません。購入を検討する場合は、大幅な価格下落を待つか、より合理的な代替品を選択することを強く推奨します。
(2025.7.25)