Truthear Pure
Hexaの後継機として登場したPureは、1DD+3BA構成と改良された設計により、バランスの取れた音質を実現した89.99USD価格帯IEM。科学的測定に基づく設計改良により音質向上を図っているが、コストパフォーマンス面では課題がある。
概要
Truthear Pureは、同社の人気モデルHexaの後継として発表された1DD+3BA構成のハイブリッドIEMです。89.99USD(約13,500円)の価格帯で、10mm動的ドライバーと3基のバランスドアーマチュアドライバーを搭載しています。DLP-3D印刷による医療グレード高透明樹脂筐体と、精密に設計されたクロスオーバーシステムにより、従来のマルチドライバーIEMが抱える位相特性の問題解決を目指した製品です。Hexaから指摘された課題を客観的測定データに基づいて改良し、より自然な音調とバランスの取れた音質を実現しています。
科学的有効性
\[\Large \text{0.7}\]Pureは測定可能な音質改善を実現しています。周波数特性は20Hz-20kHz(±3dB)の実効範囲を確保し、中級IEMとして良好な性能を示しています。THDは1kHz/94dB SPLで0.1%以下を達成しており、透明レベルに近い優秀な歪率性能です。特筆すべきは位相特性の最適化で、4ドライバー構成でありながら全周波数帯域で高い位相一貫性を維持し、従来のマルチドライバーIEMが抱える位相ずれによる音質劣化を改善しています。ハーマンターゲットに近いチューニングとクロスオーバー設計の最適化により、測定結果と設計目標の整合性が高く、聴覚上意味のある改善が確認できます。
技術レベル
\[\Large \text{0.8}\]中級価格帯として優秀な技術的実装が評価できます。10mm動的ドライバーは液晶ポリマー(LCP)振動板を採用し、低域の正確な再生を実現しています。3基のバランスドアーマチュアドライバーとの統合には、周波数クロスオーバーを採用し、各ドライバーが適切な役割を果たすシステムを構築しています。DLP-3D印刷による筐体製造は医療グレード樹脂を使用し、HeyGear社の技術による精密な造形を実現しています。新設計の銅銀メッキ同軸ケーブルも含め、この価格帯としては技術的に洗練された実装となっており、業界平均を上回る技術レベルを示しています。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.7}\]同等機能を持つより安価な選択肢が存在します。Pure(89.99USD、約13,500円)に対し、同じTruthear製のZero Red(64.99USD、約9,750円)が最も安価な同等製品として特定されます。Zero Redはデュアルダイナミックドライバー構成ながら、基本的な音響性能と一般的な使用においてPureと同等レベルの満足度を提供します。計算式は9,750円÷13,500円=0.722となり、0.7の評価となります。Pureは確かに4ドライバー構成でより技術的に洗練されており、音質面での優位性を持ちますが、純粋な機能対価格比では約38%のコスト増となっています。90USD価格帯では他社からも競合製品が存在し、圧倒的な価格優位性は確認できません。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.7}\]製品品質とサポート体制は業界平均を上回ります。DLP-3D印刷による筐体は高い精度と耐久性を実現し、医療グレード樹脂の使用により長期使用での劣化リスクが低減されています。新設計の銅銀メッキ同軸ケーブルは、Hexaから改良されており、取り回し性と耐久性が向上しています。装着感はHexaの設計を踏襲しつつ改良が加えられ、長時間使用に配慮された設計で良好なパッシブ遮音性を確保しています。Truthearは比較的新しいブランドながら、Crinacleとのコラボレーション実績もあり、品質管理と顧客対応は適切に行われています。ただし、保証期間や修理体制については業界最高水準には達していません。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.9}\]極めて合理的な設計アプローチを採用しています。科学的測定に基づく設計最適化は、実証的な音質改善の典型例です。Hexaからの改良において、フィードバックと測定データを活用して各コンポーネントを系統的に改良する手法は高く評価できます。Crinacleとのコラボレーション実績が示すように、測定に基づく客観的なチューニングアプローチを採用しており、主観的評価に依存しない設計哲学を持っています。マルチドライバー構成における位相特性の最適化や、ハーマンターゲットに基づくチューニングなど、測定可能な効果を伴う合理的な設計判断を行っています。オカルト的要素を完全に排除し、客観的データに基づく継続的改良を行う企業姿勢は極めて合理的です。
アドバイス
Truthear Pureは、科学的根拠に基づく設計改良により実際の音質向上を実現した製品として評価できます。特にHexaの後継機として、マルチドライバー構成における位相特性の最適化や音質バランスの改善は注目に値します。ただし、コストパフォーマンスの観点では、同社のZero Redが約72%の価格で基本的な音響性能を提供するため、純粋な機能対価格比を重視するユーザーには推奨しにくい状況です。Pureを選択すべきユーザーは、4ドライバー構成による音質の洗練さや技術的完成度に価値を見出し、約3,750円の価格差を許容できる場合に限られます。初回IEM購入者であれば、まずZero Redで基本性能を確認し、より高次元な音質を求める段階でPureへのアップグレードを検討することを推奨します。技術的完成度は確実に高いですが、90USD価格帯では競合製品も多く、圧倒的な優位性を主張するには至りません。
(2025.7.14)