Yamaha NS-10M
1978年発売の伝説的スタジオモニター。製造終了から20年以上経過し、現在の技術水準と比較すると性能面で大幅に劣ります。
概要
Yamaha NS-10Mは1978年に発売された伝説的なニアフィールドモニタースピーカーです。元々は家庭用オーディオの「ブックシェルフ」スピーカーとして設計されましたが、その特徴的なサウンドが多くのエンジニアに評価され、スタジオでの使用が広まり業界標準のモニターとして君臨しました。2001年、ウーファーのコーン紙に不可欠な木材パルプの供給が終了したことにより、惜しまれつつ製造終了となりました。累計で20万ペア以上が販売され、2007年にはその功績からTechnical Grammy賞を受賞しています。しかし、2025年現在の技術水準から見ると、周波数特性や技術面で大幅に劣る製品となっています。
科学的有効性
\[\Large \text{0.3}\]周波数特性は公称60Hz~20kHzですが、実際には200Hz以下の低域が急激にロールオフし、2kHz付近に+5dBの顕著なピークを持つなど、意図的にフラットからかけ離れた設計がなされています。現代のモニタースピーカーが目指す音源の忠実な再現性(High Fidelity)とは正反対の特性であり、科学的観点からは著しく不正確です。優れた過渡応答を持つ一方で、この周波数特性の大幅な偏りは可聴レベルの音質劣化を生じさせます。
技術レベル
\[\Large \text{0.6}\]18cmペーパーウーファーと35mmソフトドームツイーターによる2ウェイ構成、クロスオーバー周波数2kHz、密閉型エンクロージャーという基本構成は1978年当時としては標準的です。軽量なドライバーと密閉型設計による優れた過渡応答は評価できますが、現代の技術水準から見ると、アクティブ回路、DSPによる音響補正、高性能な内蔵アンプなどの技術は一切搭載されておらず、技術レベルは低い評価となります。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.5}\]中古市場における本機の価格が30,000円(ペア)程度であるのに対し、同等の測定性能(意図的に不正確な周波数特性)を持つ現行のパッシブスピーカーとしてMicca MB42Xは14,800円(ペア)で入手可能です。MB42XはNS-10Mと同様に周波数特性に大きな偏差を持ちながら、価格は半分以下です。同等の性能を持つ代替品の価格をレビュー対象の価格で割る計算式(14,800円 ÷ 30,000円 ≒ 0.49)に基づき、コストパフォーマンスは0.5と評価します。音楽鑑賞や正確なモニタリング用途において、NS-10Mを選ぶコスト的な合理性はありません。
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.2}\]製造終了から20年以上が経過しており、市場に流通するすべての個体が中古品です。ウーファーやツイーターの経年劣化は避けられず、特にコーン紙の黄ばみや硬化、エッジの劣化により、本来の性能を維持している個体は皆無に等しいです。故障した場合、メーカーによるサポートは終了しており、純正部品の入手は極めて困難であるため、修理は不可能に近い状態です。パーツの互換性もなく、信頼性は業界最低水準です。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.4}\]密閉型エンクロージャーによって優れた過渡応答を追求した点は合理的でした。しかし、「悪い音のスピーカーで良いミックスを作る」という思想に基づき、意図的に不正確な周波数特性を採用した設計は、現代の測定技術と音響工学の観点からは非合理的です。正確なモニタリングには透明性の高いフラットな特性が求められ、意図的な周波数特性の偏りに科学的根拠はありません。生産終了から20年以上が経過した現在、この設計思想を積極的に支持する理由はありません。
アドバイス
ヴィンテージ機材としての収集目的以外での購入は推奨しません。現行のモニタースピーカーは、あらゆる面でNS-10Mより優れています。NS-10Mと同等の「不正確な性能」であれば、はるかに安価なMicca MB42Xのような選択肢があります。正確なモニタリング環境を求めるのであれば、NS-10Mは別途パワーアンプが必要なことを考慮すると、実質的に同価格帯かより安価に導入できるアンプ内蔵の現行モデル、例えばJBL 305P MKII、Adam Audio T5V、Yamaha HS5などを強く推奨します。これらの現行モデルは、正確な周波数特性、低歪率、アクティブ回路などを備え、科学的に優れたモニタリング環境を実現します。
(2025.7.23)