製品レビュー
Tannoy Prestige Kensington GR
ペアで19,790 USD(約3,067,000円)のTannoy Dual Concentricドライバーを採用したヘリテージ型パッシブフロア型スピーカーです。測定された周波数特性では55 Hzで+8 dBという大きなベースピークが確認されています。パッシブ・オールアナログ設計により構造的な信頼性は高く、MoFi SourcePoint 888はペアで4,999 USD(約775,000円)で実測FR偏差2.6 dBを達成しています。コストの大部分はヘリテージ素材と美観に配分されており、音響的最適化への投資は限定的です。
概要
Tannoy Prestige Kensington GRは2ウェイのパッシブ型フロア立ちスピーカーで、Tannoyの5段階構成のPrestige Gold Referenceシリーズにおける3番目のモデルです。1926年に英国で創業したTannoyは、1947年にDual Concentricコアキシャルドライバーを発表しました。このドライバーは高域用コンプレッションドライバーが低域用コーンの中心部を同軸上に通して音を放射する設計であり、単一の音響点音源を実現しています。Kensington GRにはアルニコマグネットモーターシステムを搭載した250 mm(10インチ)版のこのドライバーが使用され、リアルウォルナット突き板を貼った手作業製造のハイデンシティバーチ合板キャビネットにDMTブレーシングが施されています。クロスオーバーにはClarityCap MRコンデンサーが使用され、組み立て工程で深冷凍処理が施されています。米国正規ディーラーを通じて1台あたり約9,895 USD(約1,534,000円)、ペアで約19,790 USD(約3,067,000円)で販売されており、Prestige GRシリーズは2013〜2014年に発売されています [1]。
科学的有効性
\[\Large \text{0.5}\]メーカー仕様では周波数特性29 Hz〜27 kHz(-6 dB)、公称感度93 dB(1 W/1 m)と記載されています [1]。Hi-Fi Worldによる軸上周波数特性測定では、55 Hz付近に約+8 dBの狭帯域ピーク、40 Hz以下での急峻なロールオフ、そして約10 kHz以上での高域のロールオフが確認されています。中域はおおむねフラットと評されています [2]。実測感度は91 dB、実測公称インピーダンスは約6オーム(最小DCR 5.7オーム)で、メーカー公称値の8オームとは差異があります [2]。
+8 dBのベースピークは周波数特性として大きな偏差です。中域のフラットさは評価できる点ですが、全体的な特性を許容範囲内に収めるには至りません。高調波歪み率については、いかなる情報源からも測定データが見つかりませんでした。S/N比、SINAD、IMD、クロストークはパッシブスピーカーに対して適用対象外の指標です。入手可能な測定データは1つの出版物による軸上周波数特性プロットのみであり、無響室スピノーラマデータは存在しません。このスコアはこれらのデータに基づいています。
技術レベル
\[\Large \text{0.4}\]Kensington GRはTannoyのスコットランド工場で製造されたインハウス設計です。Dual Concentricコアキシャル点音源ドライバーはTannoyが独自に発明したもので、このドライバーアーキテクチャにおける相当量の蓄積された製造ノウハウを反映しています。ただし、コアキシャルドライバーの概念は現在では複数の競合他社がTannoyのライセンスなしに実装しており、技術的な差別化の価値は低下しています。
アルニコマグネットモーターシステムは1978年頃までにスピーカー業界全体からほぼ淘汰され、コストと性能の両面からフェライト、後にネオジムマグネットへと置き換えられました。アルニコをプレミアムヘリテージ素材として意図的に再導入することは技術的進歩とは言えず、独立した対照測定による音質上の利点の確認もなされていません。クロスオーバーへの深冷凍処理については、可聴域への効果を示す査読付きの音響測定エビデンスがありません。製品はパッシブかつオールアナログで、デジタル統合は一切ありません。GRリビジョンでは前モデルに対してクロスオーバーコンポーネントのアップグレード(ClarityCap MRコンデンサー、積層鉄心インダクタ)と新素材コーンが採用されましたが、これは根本的なイノベーションではなく段階的な改良にとどまります。独自の技術内容を保護する有効特許は確認されませんでした。
コストパフォーマンス
\[\Large \text{0.3}\]Kensington GRのペア価格は19,790 USD(約3,067,000円)です [1]。パッシブスピーカーとして、ユーザーにとって本質的な要件は標準バインディングポストによるパッシブ動作、十分な周波数レンジ、十分なSPL能力です。
MoFi Electronics SourcePoint 888はペアで4,999 USD(約775,000円)[4] で入手でき、同等以上の実測性能を提供します。Erin’s Audio CornerによるKlippel Near-Field Scannerを使用した測定結果 [3]:
- 周波数特性偏差(300〜5,000 Hz): SourcePoint 888 = 2.6 dB(Klippel NFS)。Kensington GRはHi-Fi Worldの測定 [2] によると55 Hzに+8 dBのピークが確認されており、この軸ではSourcePoint 888が実測上明らかに優れています。
- 低域伸張(-6 dB): SourcePoint 888 = 30.0 Hz(実測)。Kensington GR = 29 Hz(メーカー仕様)— 差異は3.4%で同等許容範囲内です。
- THD: SourcePoint 888については86 dBおよび96 dB SPLで測定された十分な性能が確認されています [3]。レビュー対象製品のTHDデータはありません。
SourcePoint 888は標準パッシブバインディングポスト接続と同等の低域伸張を備え、実測FR偏差2.6 dBはレビュー対象の実測特性と比較して大幅に優れています。Kensington GRについては数値的な無響室周波数特性測定データが存在しないため、この比較は暫定的なものです。
CP = 775,000円(4,999 USD)÷ 3,067,000円(19,790 USD)= 0.25
信頼性・サポート
\[\Large \text{0.9}\]Kensington GRのパッシブ・オールアナログ構造——アンプ基板、DSP回路、電解コンデンサーなし——は電子的故障モードを本質的に最小化します。GRシリーズで採用されたファブリックドライバーサラウンドは、旧来のPrestigeモデルで使用されていたフォームサラウンドと比べてはるかに高い耐久性を示しています。クロスオーバー作業やドライバーのリコーニングに対応するサードパーティの専門修理サービスが独立して利用可能であることも確認されています。
米国市場向け保証期間は、購入後90日以内にMusic Tribeに登録した場合3年間です [1]。Music TribeはEmpower Tribeネットワークを通じて、国別の認定サービス実施者によるグローバルメーカーサポートを提供しています。Dual Concentricパッシブスピーカーは1947年から継続して製造されており、多くのヴィンテージユニットが現在も使用中であることが、信頼できる長期信頼性の実績を裏付けています。唯一の物理的懸念点として、高さ1,100 mm・細身キャビネットで重心が高いため転倒リスクがある点が挙げられますが、金属製フィートとカーペットプロテクターが付属しています。GRシリーズの統計的故障率データは公開されておらず、入手可能な情報源からは製造上の欠陥パターンは確認されませんでした。
設計思想の合理性
\[\Large \text{0.1}\]Kensington GRの開発思想は意図的に後ろ向きです。1978年頃までにスピーカー業界全体からほぼ淘汰されたアルニコマグネットが、フェライトやネオジム代替品に対する技術的優位性ではなくヴィンテージプレミアムポジショニングとして再導入されています。「導体の結晶構造を改善する」と主張するクロスオーバーへの深冷凍処理には、独立した対照音響測定エビデンスがありません。内部のシルバー/PCOCC配線についても、スピーカーレベルの信号条件において標準銅線に対する実証済みの測定上の優位性はありません。
GRシリーズが発売された2013〜2014年時点では、DSPルーム補正システムやネオジムドライバーを採用した測定最適化型パッシブスピーカーが商業的に成熟した代替製品として存在していました。この価格帯においてパッシブ・アルニコ設計を採用することは、技術的制約ではなくイデオロギー的スタンスを反映しています。SE→GRリビジョンではクロスオーバーコンポーネントのアップグレードと外観のリデザインが行われましたが、文書化された音響的測定上の改善はなく、一方で価格は大幅に上昇しました。アルニコの「クリーンなトランジェント応答」やクリオジェニック処理の音質向上効果など、複数のメーカー主張については独立した対照測定による検証がなされていません。ペア19,790 USD(約3,067,000円)という価格の大部分はヘリテージ素材、職人的なキャビネット製造、機械加工されたメタルワーク、ブランドプレミアムに充当されており、音響性能最適化への投資は相対的に限定的です。製品としてのスピーカー機能は実現されており、実際の音響出力を提供します。
アドバイス
Kensington GRは、Tannoyのプレスティージュヘリテージ、ハンドビルド構造、そして家具としてのキャビネット美学を明確に評価し、19,790 USD(約3,067,000円)というペア価格の相当部分がこれらの非音響的要素に起因することを受け入れられる購入者に適しています。パッシブ・オールアナログ設計は長期的な構造信頼性において高い水準を誇り、グローバルに利用可能なメーカーサポートを備えた3年保証は実質的な強みです。
実測音響性能を主要基準とする購入者は次の点に注意が必要です。Hi-Fi Worldの測定 [2] では軸上周波数特性に55 Hzで+8 dBのピークが確認されており、独立した無響室THDデータは存在しません。MoFi Electronics SourcePoint 888は独立した高分解能無響室測定でKlippel NFSによる実測FR偏差2.6 dBを達成しており、ペアで4,999 USD(約775,000円)[3][4] で入手可能です——約4分の1の価格で実測低域偏差は大幅に小さく、その性能が独立した測定により確認されています。測定検証済みの音響性能を優先する購入者にとって、独立した無響室データが確認されている代替製品のほうが大幅に優れたコストパフォーマンスを提供します。
参考情報
[1] Upscale Audio — Tannoy Kensington Gold Reference Loudspeaker (each) — https://upscaleaudio.com/products/tannoy-kensington-gold-reference-loudspeaker — accessed 2026-05-31
[2] Hi-Fi World — Tannoy Kensington GR, Measured Performance (page 5) — https://www.hi-fiworld.co.uk/index.php/loudspeakers/65-reviews/745-tannoy-kensington-gr.html?start=4 — accessed 2026-05-31 — on-axis FR plot, impedance curve, 200 ms cumulative spectral decay; measurement conditions not specified
[3] Erin’s Audio Corner — MoFi Electronics SourcePoint 888 Tower Speaker Review — https://www.erinsaudiocorner.com/loudspeakers/mofi_soucepoint_888/ — accessed 2026-05-31 — Klippel Near-Field Scanner; FR deviation 2.6 dB (300–5,000 Hz); F6 30.0 Hz; sensitivity 85.6 dB
[4] Audio Advisor — MoFi SourcePoint 888 — https://www.audioadvisor.com/prnt-mosp888-blk — accessed 2026-05-31
(2026.6.1)
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